県政のトップが職員の私的情報の漏えいを部下に指示していたなら、許されることではない。知事の証言がなぜ関係者と食い違っているのか、納得できる説明を尽くさねばならない。

 兵庫県の斎藤元彦知事の疑惑告発文書を作った県西播磨県民局長だった男性の私的情報を、元総務部長が県議3人に見せたとされる問題で、県の第三者委員会が報告書を公表した。

 報告書は、元総務部長による漏えいを認定し「知事や元副知事の指示で、県議会一部会派への根回しの趣旨で漏えいした可能性が高い」と結論付けた。

 「告発者の人格に疑問を抱かせ文書の信用性を弾劾するためだった」との見方にも言及した。

 報告書を受け斎藤氏は記者団に「組織の長として責任を感じる」としたが、漏えいについては「指示はしていない」と否定した。

 しかし、第三者委の調査で元総務部長は「議員3人に面会して私的情報を口頭で伝えた」とし、その上で知事から「そのような文書があることを議員に情報共有しといたら」と言われたとしている。

 元副知事も根回しを指示したことを認めたほか、その場に同席した元幹部職員も元総務部長の主張に沿う説明をしている。

 第三者委が「これと整合しない知事の主張は採用することが困難」としたのは、理解できる。

 斎藤氏は否定するだけではなく、なぜ自らの証言だけが合致しないのか、説明責任が求められる。

 残念なのは、昨年3月に男性が告発文書を配布して以降、県政の混乱が収まらないことだ。

 斎藤氏は告発文書を「うそ八百」と批判し、公益通報の対象外と判断して告発した男性を懲戒処分とした。男性はその後死亡した。

 男性の私的情報とされるデータが交流サイト(SNS)上に拡散された問題を調べた別の第三者委は、県職員の関与が濃厚だと報告書を発表している。

 県議会の百条委員会はパワハラなど一定の事実を確認したほか、告発文書を検証した第三者委は、斎藤氏が文書を公益通報と扱わず、男性を懲戒処分したのは「明らかに違法」で無効だとの判断を下している。

 斎藤氏はこれまでパワハラについては認めたが、文書問題の対応は「適切だった」との主張を貫いている。今回を含め斎藤氏が、第三者委の報告を軽んじていることも見過ごせない。

 昨年秋に県議会が不信任決議を可決、斎藤氏は失職を選択し再選したが、議会の一部からは再び辞職を求める声が上がっている。

 斎藤氏は「県政をしっかり前に進める」としているものの、こうした状況で可能なのか疑問だ。

 県民のためにも県政の停滞はあってはならない。県民を第一に考えた対処が求められる。