地球温暖化で熱中症のリスクは高まり、毎年多くの人が亡くなっている。労働者の命を守る態勢を早急に整えなければならない。
職場において適切な熱中症対策を講じることが今月、企業に義務付けられた。
温度や湿度を踏まえた「暑さ指数(WBGT)」28以上または気温31度以上の環境で、連続1時間以上か1日4時間を超えて行う作業が対象となる。
企業が対策を怠ると、6カ月以下の拘禁刑または50万円以下の罰金が科される可能性がある。
義務化の背景には、職場で熱中症で亡くなる人が減らない現状がある。厚生労働省によると2024年は31人と、3年連続で30人以上となった。状況は深刻だ。
また、厚労省が20~23年の死亡事例103件を分析した結果、複数の理由があるものも含め、「発見の遅れ」が78件、医療機関に搬送しないといった「異常時の対応の不備」が41件あった。
熱中症は、気付いた時には手遅れということも多い。義務化は重症化を防ぐため、発生時の対応に重点を置いた形だ。
義務化により企業には、熱中症の疑いや自覚のある人がいた場合に報告する連絡先や担当者を定めることが求められる。
作業を離れて体を冷やし、必要に応じて医療機関に搬送するなどの処置の手順を定めるとともに、対策を労働者ら関係者に周知することも必要となる。
いずれも早期発見や重症化の防止のためには欠かせない。業種や勤務環境など、それぞれの職場の実態に合った内容となるよう、企業は現場の意見を取り入れながら対策を講じてほしい。
義務化に先立ち、企業は熱中症への備えを進めてきた。
建設大手は、外国人就労者にも理解しやすいピクトグラム(絵文字)を使った熱中症の啓発ポスターを作成した。
建設業は、昨年の熱中症死傷者が228人と製造業に次ぐ数となり、外国人も多く働く。ポスターのような先行事例が業界内で共有されれば、熱中症災害の減少につながる効果が期待される。
屋外作業が多い業種では、日差しや照り返しを遮る仮の壁や屋根を設置したり、WBGT測定器を導入したりする企業もある。
中小企業が設備の導入を費用面から躊躇(ちゅうちょ)することがないように、行政には十分な支援を求めたい。
新潟地方気象台は5月20日に発表した6~8月の3カ月予報で、本県を含む北陸地方は暖かい空気に覆われやすく、気温は高いとしている。今夏も暑さへの警戒が必要となる。
職場以外でも例年、多くの人が熱中症を発症している。一人一人がこまめな水分補給や適切な冷房の使用など基本的な対策を心掛け、健康を守りたい。