東アジアの安全保障環境が大きく変容する中で、韓国の政治的安定は不可欠だ。半年間にわたり続いた国内の混乱を収束させ、停滞した外交や経済対策を前に進めてもらいたい。

 韓国大統領選で革新系政党「共に民主党」の李在明(イジェミョン)前代表が当選し、4日、大統領に就任した。戒厳令を発動した尹錫悦(ユンソンニョル)前政権への評価などが主な争点となり、3年ぶりの政権交代となった。

 核・ミサイル開発を進める北朝鮮や、軍事的に台頭する中国の脅威を前に、日米韓3カ国の連携は欠かせない。その一角である韓国に生じた政治的空白は大きな懸念材料だった。

 李氏は就任演説で、国政の正常化と、国民の統合を訴え、低迷する経済の立て直しにも意欲を示した。加えて、日米韓の連携強化を進める姿勢も強調した。日米との関係構築を急いでほしい。

 保守系の尹政権は日韓関係改善を進めたが、その前の革新系の文在寅(ムンジェイン)政権では「戦後最悪」と言われるほど関係が悪化した。革新系の李氏が今後、どのような対日政策をとるのか、慎重に見極める必要があるだろう。

 気にかかるのは、日韓関係を巡り、李氏がかつて日本に強硬な発言を繰り返していたことだ。

 韓国最高裁で日本企業に元徴用工らへの賠償を命じる判決が相次いだことを受け、尹前政権が賠償金を韓国の財団が肩代わりする方針を示した当時、李氏は「屈辱外交だ」と断じていた。

 しかし、選挙戦では「日本は重要な協力パートナー」と述べるなど、態度を軟化させた。

 就任後の記者会見では、徴用工訴訟を巡る尹政権の解決策について「国家間の関係には信頼の問題があり、一貫性が必要だ」とし、維持する考えを示唆した。

 政権運営に当たり、過去の発言を修正したとみられる。融和的な外交政策が今後も維持されるならば評価できる。

 李氏の外交ブレーンは、日韓首脳間の「シャトル外交」を引き継ぐ考えを示している。早期に対話を始めるべきだ。

 対北朝鮮政策は転換が予想される。尹政権の強硬路線から、軍事的緊張の緩和を図るとみられる。非核化交渉の再開に向け、南北間対話の復活を目指すという。

 ただ、北朝鮮は2023年末に韓国を敵対国と見なすと表明し、南北間の往来や連絡チャンネルが途絶したままだ。

 朝鮮半島の平和と安定に向けた政策をどう進めるのか注視する必要がある。

 韓国は深刻な人口減と高齢化に直面している。北朝鮮による拉致問題も含め、日本と共通する課題は少なくない。

 今年は日韓国交正常化60年の節目だ。交流を深め、課題解決にも知見を交わしたい。