自民党の総裁選に立候補する記者会見で、小さなノートを出して見せたのは前首相の岸田文雄氏だった。さまざまな人から聞いた言葉を書き留めているとし、自らには「聞く力」があるとアピールした
▼3年弱の任期中、その能力を発揮できただろうか。首相官邸や国会にいるばかりでは聞こえてこない国民の声がある。それらに耳を傾けることは、為政者に当然に求められる資質だろう
▼早大名誉教授の李鍾元(リージョンウォン)さんによると、韓国大統領だった朴正熙(パクチョンヒ)と金大中(キムデジュン)の両氏も小さな文字で書き込んだ手帳を残したという。李名誉教授は、思いついたことを書き留める几帳面な性格の表れだと話す。独裁政権を率いた朴氏と、民主化に貢献した金氏の思わぬ共通点だ
▼この人も小さな手帳を持ち歩いているという。新たに韓国大統領に就任した李在明(イジェミョン)氏だ。手帳に何を書き留めているかは定かではないが、耳に痛い言葉も記されていることを期待したい
▼僅差で敗れた前回選挙の雪辱を果たした。期するものはあるだろう。昨年12月の尹錫悦(ユンソンニョル)前大統領による戒厳令以降続く混乱を、どう収めるのかが問われる。そして未知数ともいわれる外交手腕はどうなのか
▼先に紹介した2人の元大統領には、さらに共通点がある。朴氏は日韓国交正常化を実現し、金氏は日本大衆文化の段階的開放に踏み切った。国内で反発もあった中、日韓関係の改善に尽力したといえる。李大統領は就任演説で両氏に言及する場面もあった。さて、日本とどう向き合うだろう。