国民の財産である電波を用いる放送局は、一般の企業以上に公共的な存在だ。全容を解明して説明責任を果たすことが、信頼回復への第一歩である。
CM制作費として架空の経費を計上したとして、関東信越国税局はフジテレビ系列のNST新潟総合テレビに、2024年3月期までの6年間で、計約11億円の所得隠しを指摘した。
重加算税を含む追徴課税は7億900万円で、NSTは既に修正申告して納税したという。
記者会見した酒井昌彦社長らによると、営業担当の元社員が18~23年度に、複数の制作会社に架空のCM制作などを依頼し、NSTが支払った制作費を元社員の親族名義の会社に流していた。
元社員は社内調査に対し、還流した金は接待費などに充てたと回答したという。酒井氏は組織的な関与を否定した。
常勤取締役6人を役員報酬減額の処分とした。元社員も処分したが、内容は明らかにしていない。
国税局は仮装・隠蔽(いんぺい)を伴う悪質な所得隠しに当たると判断したとみられる。
不可解なのは、架空のCM制作が昨年8月の税務調査まで、長期間発覚しなかったことである。NSTは「書面上は整っていた」として制作物を確認していなかったという。チェック態勢が機能していなかったと言わざるを得ない。
元社員とは代理人を通じて話し合いを続けており、流れた金額はいまだに不明だ。架空制作の全容が判明しなければ、再発防止策を講じようがないだろう。早急に解明し、公表してもらいたい。
NSTは報道機関として、日頃は取材活動をする立場である。にもかかわらず、後ろ向きの姿勢だったことは極めて残念だ。
問題は6月3日に一部報道で発覚したが、記者会見を開いたのは翌4日だった。
酒井氏は「しっかりとお答えできる形を整えてからということで(このタイミングでの)記者会見の設定となった」と釈明した。
しかし、NSTはフジテレビに5月30日に問題を報告し、6月3日には社員向け説明会を開いている。不祥事をできるだけ公にしたくないとの意図はなかったのか。
フジは1月、女性アナウンサーと、元タレントの中居正広氏のトラブルを巡る記者会見で、出席する記者を制限し、映像撮影を認めなかった。
NSTの社内からは今回、「フジの二の舞」との声も上がった。危機対応に甘さはなかったか。
インターネットや交流サイト(SNS)の台頭で、テレビやラジオ、新聞といった既存のメディアに厳しい視線が向けられている。
メディアはどんな問題でも、正確な情報を丁寧に伝え、民主主義の基盤を守る責任があることを強く自覚したい。