物流網にとって大きな懸念材料が生じることになる。市民生活に深刻な影響を与える事態は避けなければならない。
国土交通省は日本郵便に対し、各地の郵便局などで保有する全てのバンやトラック約2500台の事業許可を取り消す行政処分案を通知した。
業務開始時や終了時にアルコール検知器を使って配達員の酒気帯びを確認する法定点呼が不適切だったことに対する処分となる。不服申し立てがなければ今月中にも処分を出す可能性がある。
許可取り消しは貨物自動車運送事業法に基づく行政処分で最も重い。大手事業者に出されるのは極めて異例である。日本郵便は事の重大さを受け止めねばならない。
事業許可は取り消されると5年間は再取得できない。輸送量の減少や荷物の遅延が長期に及ぶことが懸念される。
主に郵便配達で使われるバイク約8万3千台は行政処分の対象外だが、国交省は今後、宅配の主力となる軽バンなど約3万2千台についても一定期間の使用停止などを検討する。
日本郵便は、宅配便「ゆうパック」だけでなく、アマゾンや楽天などのインターネット通販大手の商品も引き受けていることから、影響が広がりそうだ。
特に、物流インフラが脆弱(ぜいじゃく)な地方への打撃が心配される。
配送能力確保のため日本郵便は、外部への委託を増やすなどの代替手段を模索する。
だが、物流業界はかねて人手不足が指摘されている。配送業者や運転手に負担を強いることにならないか気がかりだ。
日本郵便の2025年3月期連結決算は純損益が42億円の赤字だった。外部委託の費用が発生すれば黒字化は見通せない。
郵便不祥事に起因して料金が値上げになれば、しわ寄せを受ける国民の理解は得られまい。
許可取り消しの処分案が示されたのは、それだけ悪質な不正が行われていたということだ。
安全運行の要である点呼を繁忙時に怠るなどの不適切点呼の問題は3月に発覚し、集配業務を担う全国の郵便局のうち75%で不適切だったことが分かっている。
点呼をしていないのに実施したとする虚偽の記録を作成していた事例も確認された。
さらに4月にも全国の郵便局で20件の酒気帯び運転があった。順法意識の低さは深刻だ。
郵便という重要な社会インフラを担う自覚を欠いていたのは明らかだ。「不正を告発しづらい組織風土がある」との内部からの指摘も聞かれる。
信頼回復へ、組織内の意識改革を急いでもらいたい。
円滑な物流をいかに維持し、混乱を抑えるか。国交省には、業界全体を見渡した調整も求めたい。