政権の目的を達成するための異例の強権発動である。市民を危険にさらすべきではない。
米西部カリフォルニア州ロサンゼルスで不法移民取り締まりを巡る抗議活動があり、トランプ大統領は、治安維持などに対処する州兵を派遣した。
米メディアによると、大統領が州知事の要請なしに州兵動員を命じたのは、公民権運動期の1965年以来だ。
民主党のニューサム州知事は交流サイト(SNS)で「事態を意図的にあおり、エスカレートさせる」と批判し、州兵動員は違憲だとして提訴した。
抗議活動は、不法移民の「史上最大の強制送還」を公約する共和党のトランプ政権が、ロサンゼルスで数十人を拘束したのを契機に強まった。
参加者は数千人に上り、州兵は活動を阻止するため、催涙ガスを使っている。
トランプ氏は州兵派遣を「素晴らしい決断だった」として追加派遣も承認した。
懸念されるのは、米軍が約700人の海兵隊員を派遣し州兵部隊に合流させると発表したことだ。
国を守るための兵力を自国民に向ける異常事態である。前代未聞の強硬措置にほかならない。
米国の反乱法は、暴動などが起きた際に海兵隊をはじめとする連邦軍が対応に当たることを例外的に認めている。トランプ氏が反乱法を発動すると、92年のロサンゼルス暴動以来となる。
海兵隊の派遣で、事態がさらにエスカレートしないか心配だ。
一連の経過から透けるのは、トランプ氏の焦りである。
4月下旬までの政権発足100日間で、不法移民の逮捕件数は1日平均660件にとどまり、政権の期待を大きく下回っていた。
看板政策を進めるため、抗議活動を「暴力的な反逆」と決めつけて危機感をあおり、挽回の機会にしようとしているのではないか。
カリフォルニア州は、メキシコと国境を接している最大の移民居住地である。
ロサンゼルスなどの大都市では、移民が法的資格の有無にかかわらず経済の一端を支え、政権への反発につながっている。
また、野党民主党の地盤でもある。トランプ氏は9日、移民取り締まりを妨害すれば、ニューサム氏を逮捕しても構わないと述べ、民主党への圧力も強めた。
自らの意に沿わぬ相手を公権力によって従わせようとする手法は、ハーバード大の留学生受け入れ認可停止にも通じる。
抗議活動は、東部ニューヨークや中西部シカゴ、西部サンフランシスコなど全米に拡大している。
米国の分断をさらに深刻化、長期化させる恐れがある。悪影響は国内外に及びかねない。事態の収拾を急ぎたい。