不朽の名作「あしたのジョー」で、主人公の矢吹丈が宿命のライバル力石徹と出会ったのは少年院だ。不良のジョーは詐欺事件を起こして、プロボクサーの力石はヤジを飛ばした観客を殴り、それぞれ収容された

▼力石にこてんぱんにやられたジョーは、いつか打ち負かしてやろうと少年院でボクシングの腕を磨く。退院してプロとなり、やがて2人はリングの上で死闘を繰り広げる

▼2人がいた少年院のモデルは神奈川県横須賀市の久里浜少年院とされる。非行の程度が深い少年やルーツを外国に持つ少年らが入る。今は約60人が社会復帰を目指して生活している。太平洋を望む少年院は当たり前だが漫画とは違い、静かで落ち着いた雰囲気だった

▼少年少女の刑法犯検挙者は校内暴力の嵐が吹き荒れた1980年代前半をピークに減少傾向にある。とはいえ犯罪がなくなったわけではなく、最近は凶悪事件や特殊詐欺、薬物などに関わる少年少女も目に付く

▼「在院者の家庭環境が以前より悪くなっている」「保護者が経済面などで社会的弱者であるケースが多い」。久里浜少年院長はそう説明してくれた。少年院の在院者には困窮世帯で育ち、幼少時に虐待を受けた経験があるケースが多いとの調査結果もある

▼今の少年たちの親世代といえば、非正規労働者が多数いる就職氷河期世代と重なる。親の困難が子に悪い影響を与える状況、負の連鎖は断ち切らねばならない。それが社会全体の役割ではないだろうか。明るいあしたのために。

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