「欠点はありますか」と聞かれることがあるそうだ。棋士の羽生善治さんだ。永世七冠であり、国民栄誉賞まで受賞した人だから、聞かれるのも無理はない
▼羽生さんは自著の中でこう答えている。「神様ではなく人間なのだから、もちろん欠点はある」と。「欠点を消すことは難しい」とも書いている。ホッとする一言だ。そういえば、羽生さんは毛がはねた寝癖頭のままの対局もあった。完璧じゃない緩いところがあるから愛される
▼困るのは「勝つ秘訣(ひけつ)は?」という質問らしい。これにどう答えるか。1回勝負であれば奇襲作戦が成功する確率は高いだろうと指摘する。だが将棋の世界は同じ人と何十回と対戦する。1回うまくいっても次は成功しない
▼「王道を行くことが大事なのだ」という。そして、心の持ちようは「ひたすらに平常心」がいい。「相手が嫌がることをやる」のが勝負であり、勝負どころではごちゃごちゃ考えず単純に行こう、と勧める
▼羽生さんは先ごろ日本将棋連盟の会長を辞した。わずか1期での退任だ。レジェンドと呼ばれた人なりの美学だろうか。そして後任に今月、女流棋士の清水市代さんが就いた。新会長は将棋界活性化のために「継承と挑戦」を掲げる
▼樹森大介さんも同じだったろう。J1アルビレックス新潟の監督を担い、ボールを保持する新潟スタイルの継承を目指したが、苦しんだ。きのう契約解除が聞こえてきた。今季就任したばかりの監督の無念さは推し量るしかない。厳しい世界だ。