真剣に考えた対策なのか、疑いたくなる案だ。現状では選挙目当ての「ばらまき」と批判されても仕方がない。

 自民党は、物価高対策として国民に一律2万円を給付し、生活を支援する方針を示した。子どもや住民税非課税世帯の大人には給付額を加算して1人4万円にする。財源は2024年度税収の上振れ分を活用する方針だ。

 通常国会閉幕を受けた23日の記者会見で、石破茂首相は「赤字国債に頼ることなく、ばらまきではない新たな給付金を参院選公約に掲げて実現する」と強調した。

 首相が一律給付を表明したのは東京都議選の告示当日の13日だった。その2日前にあった党首討論では、野党党首に聞かれても「給付金について、現在検討している事実はない」と明言していた。

 一転して給付を表明したのでは、参院選に加えて都議選も意識した票目当ての対策に映る。

 そもそも自民党内で給付案が浮上したのは、トランプ米政権による相互関税発動の衝撃が広がった4月上旬だった。

 だが報道各社の世論調査で低評価が判明すると機運がしぼみ、首相も「選挙目当てのばらまきは考えていない」と断言したはずだ。

 それがまた給付案に戻ったのは、政権への無策批判をかわしたい思いがあったからだろう。

 主要野党の足並みが消費税減税や廃止でそろう中、連立を組む公明党が食料品などに適用される軽減税率の引き下げを働きかけても自民は応じなかった。

 首相は23日の会見で「医療、年金、介護の財源である消費税を、安定財源なしに減税するというような無責任なことはできない」と述べ、消費税減税を否定した。

 ならば、給付案は責任ある対策といえるのかどうか。

 一律給付は準備が少なくて済み、迅速に実施できる半面、貯蓄に回りやすく、消費の押し上げ効果は限定的との見方が多い。

 首相が当初、説明したように「本当に困っている人に重点を置いた給付」と位置付けるなら、一律ではなく、低所得者に限定するなど目的を明確にするべきだ。

 一方、消費税は収入の多くを消費に回す低所得者ほど減税の実感が大きいというが、法改正が必要で一定の時間がかかる。事業者のシステム改修や価格改定など準備が必要で、減税前の買い控えなど経済の混乱を招く恐れもある。

 共同通信が行った直近の世論調査では、税収が想定より増えた場合に望ましい活用法は「消費税減税」が55・7%と最多で、「現金給付」は9・9%にとどまった。

 自民支持層でも「消費税減税」を43・9%が選び、「現金給付」は12・3%だった。

 掲げる対策と国民が望む政策にずれはないか。政権与党である自民は謙虚に考えるべきだろう。