求められるのは物価高対策だけではない。コメの高騰が図らずも政府と国民感情との乖離(かいり)を浮き彫りにした。政治が有権者の信頼を取り戻せるかは論戦次第だ。政権の枠組みを左右する重要な選挙になる。

 参院選がきょう3日公示され、20日の投開票に向け17日間の論戦が始まる。

 各党とも物価高への対策を公約に掲げた。

 与党の自民、公明両党は負担軽減策として現金給付を柱とし、野党各党は消費税や所得税の減税を前面に据える。

 ロシアによるウクライナ侵攻に、輸入物価を押し上げる円安進行も相まって食品など幅広い分野で値上げが続いており、対策が急がれるのは間違いない。

 どうやって家計の負担を減らすのか。政策の裏付けとなる財源にも目を凝らしたい。

 特にコメはスーパーでの平均価格が前年同期の2倍を超えるまでに高騰した。

 異例の政府備蓄米放出や農相の更迭といった泥縄式の対応に振り回されたのは国民であり、本県などの生産者だ。

 主食生産の展望を各候補は大いに語ってもらいたい。

 ◆課題の先送りばかり

 農業のほか、本県にとってはエネルギー政策も気がかりだ。中でも原発政策は注視される。

 東京電力福島第1原発事故を受け、原発依存度の低減が掲げられてきたが、与党が大勝した2022年参院選の後、岸田文雄政権は最大限の活用へと大きく転換した。

 現在は本県の東電柏崎刈羽原発の再稼働問題が焦点で、県外や経済界の関心も高い。

 災害対策やテロ対策など原発の安全性について議論されなければならない。脱炭素やエネルギー安全保障といった観点からも各党政策を吟味したい。

 参院選は、石破茂首相が率いる政権への中間評価となる。

 石破氏は選択的夫婦別姓の導入に前向きで、28年ぶりの審議入りが注目された。

 しかし6月までの通常国会で、慎重派が多い自民は独自法案の提出を見送った。立憲民主党、日本維新の会、国民民主党がそれぞれ提出した3法案の採決も見送られた。

 企業・団体献金を巡っても、禁止か存続か与野党が折り合えず、結論が先送りされた。明らかに「政治とカネ」問題の解決に後ろ向きである。

 与野党による熟議の国会を掲げる石破氏だが、相次ぐ先送りは目指す姿からは遠い。

 年金制度改革法は自民、公明、立民などの賛成多数で成立したものの、基礎年金(国民年金)の底上げを実際に実施するかどうかの判断は棚上げしてしまった。少子高齢社会の進展から目を背けているかのようだ。

 決められない国会は与党の責任ばかりではないだろう。野党も参院選を意識し、実績のアピールに終始していなかったか。

 与野党とも課題解決への覚悟を示すべきである。

 米トランプ政権との関税交渉は長引いている。

 日本の基幹産業である自動車産業にとって追加関税は打撃となる。農産物や防衛といった分野への影響も心配だ。

 ◆民主主義を守らねば

 外交力が試されるのは対米関係だけではない。

 太平洋戦争が終結して80年がたつにもかかわらず、戦火は絶えず、世界の分断が広がっている。日本だからこそ展開できる平和外交があるはずだ。

 安全保障に関する各党の議論を通し、平和憲法と共に歩んできた日本の民主主義を見つめ直す機会にしたい。

 前回参院選では「暴力に屈しない」との与野党による異例の決意表明があった。安倍晋三元首相が街頭演説中に銃撃され亡くなったからだ。

 選挙は、民主主義の原点である。それをゆがめる行為は暴力であれ、交流サイト(SNS)での偽・誤情報であれ、決して許されない。

 石破政権は、衆院で少数与党として厳しい政権運営となっている。参院でも過半数割れとなれば、連立の枠組みが変わる可能性もある。

 1票が重い意味を持つ選挙である。一人一人が将来を見据えた選択をしたい。