ピアノの鍵盤は、1オクターブ約16・5センチが標準幅とされている。だがバッハやショパンが活躍した時代は今より約8ミリ細く、現在の幅になったのは1870年ごろという。新潟市中央区の黒田千亜紀さんに教わった。かつてのサイズに近い「細幅鍵盤」の普及に取り組む

▼手の小さな人にとって幅の違いは切実だ。女性を中心に手の小ささが妨げとなって演奏家の道を断念する人や、ピアノをやめる人がいる。オーストラリアでピアノを弾く人を調べたところ、女性の約9割、男性の2割超が現在の幅を弾きこなすには手の大きさが不十分だった

▼長年趣味でピアノを弾く黒田さんも、手は1オクターブがぎりぎり。無理に指を広げて練習し、手を痛めたことがある。細幅鍵盤を手に入れ、初めて弾いた時には「今までの苦労は何だったのと、くらくらした」。演奏をより楽しめるようになった

▼グランドピアノなら、鍵盤は標準幅と容易に交換できる。海外で細幅も選べるピアノコンクールが始まったことも知った。細幅鍵盤を普及させて状況を変えたいと昨年、有志と会をつくった。「目指すのは自分に合う鍵盤を選べるようにするという当たり前のことです」と話す

▼きょう6日は「ピアノの日」。1823年のこの日、ドイツ人医師シーボルトが初めて日本にピアノを持ち込んだことにちなむ。誰もがピアノに親しめるように、と願う日でもあるだろう

▼それぞれの人に合わせた道具や環境があればいい。ピアノに限った話ではない。

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