写真家の芥川仁さんは宮崎県の土呂久ヒ素鉱害や水俣病にレンズを向けた。ヒ素や有機水銀による中毒症状は目に見えにくい。「被害者の症状を映像として伝えるにはどうしたらいいんだろうと悩み続けた」。かつて本県を訪れた際、こう話していた

▼症状が目に見えにくく、他者からはその苦しみを察するのが難しい病気は多い。新型ウイルス感染症の後遺症の中にも、そうした症状がある。とりわけ強い倦怠(けんたい)感などは、周囲の理解を得られないことも相まって患者を苦しめている

▼川崎市の女性はある朝、その場にしゃがみ込んでしまうほどのだるさに襲われた。手足に力が入らず、まるで沼の中にいるようだったという。いくつも医療機関を回ったが、原因は分からなかった

▼「こんなに苦しいのに、誰にも分かってもらえない」と絶望した。そんな時、友人が交流サイト(SNS)に投稿した症状が、自分と酷似しているのに気付いた。新型ウイルス感染症の後遺症だという

▼感染した自覚はなかったものの、友人に強く勧められ専門医を受診すると「後遺症に99%間違いない」と診断された。後遺症の治療が始まると、ようやく体調が上向き始めた

▼専門医によると、患者が訴えるだるさは倦怠感という言葉ではくくれないほどひどい例があるという。厚生労働省研究班の調査では、入院患者のうち、退院1年たった時点で後遺症を抱えている可能性がある人は約1割に上る。人知れず苦しみ続けている人が周囲にいるかもしれない。

朗読日報抄とは?