「2025年に行くべき52カ所」に選ばれた富山市を休暇で訪れた。米紙ニューヨーク・タイムズの選出で、世界の旅行先として日本で最上位の30番目に位置づけられた

▼いい食との出合いは旅に彩りを添える。目当ての一つは富山を推薦した米出身作家も立ち寄ったカレー店。氷見産煮干しのだしが効いたカレーは余韻が広がる味わいで、食材や食器は地元産にこだわる。インバウンド(訪日客)対応か、店員が英語でメニューの説明をしていた。時間帯により列ができる理由が分かった

▼富山は「混雑を回避しながら文化的な感動とグルメを楽しめる」と評価されたが、能登半島地震からの復興を後押しする狙いもあって選ばれたようだ。選出が追い風となり、外国人宿泊客も増えているという

▼地方都市で切り盛りする店に、国内外の人が集う。平和が80年続いてきたことの証しだろう。こんな思いに浸るのも富山の市街地は80年前の8月2日未明、大空襲で焼け野原になったからだ。犠牲者は2700人に上る

▼その直前に空襲に遭った長岡市とは「同じ夜に爆撃を受けた」として交流を深めてきた。5月に長岡戦災資料館で開かれた展示会では、富山空襲の惨状を描いた絵日記や写真が公開された

▼あすから17日まで、富山県民会館で富山、長岡両市の空襲にまつわる資料の展示会が開かれる。行くべき都市に選ばれた今年は、海外の人々にも訪れてもらうまたとない好機だろう。戦火を交える愚かさを、国境を越え広く共有したい。

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