「病院の経営赤字の記事がよく出るが、老人はもうからないと言われているようだ」。高齢の男性読者からこんな電話がかかってきた。妻が救急搬送された病院への不信感を抱えていた
▼搬送先の医師に「なんでうちに運んできたのか」と言われたそうだ。入院後しばらくして、妻は91歳で亡くなった。連れ合いを失った悲しみと、尊厳が傷つけられた悔しさと。やり場のない気持ちを口にした
▼息子が医師をしているというこの男性は、医療関連の記事を熱心に読んでいた。病院の経営難を報じる際は、患者側の視点を入れてもらいたいと語った。ごもっともだ
▼地域医療は病院があってこそ。つぶれてしまっては元も子もなく、採算を考えた病院運営が求められている。そんな見方で捉えがちだが、問題の本質はわが国の医療の仕組みにある
▼日本病院会など6団体の調査によると、全国の病院の6割が赤字だという。前年より1割増えた。高度専門医療を担う42の国立大の病院も同様に厳しい。赤字の主な要因は人口減と物価高だ。6団体は「地域医療は崩壊寸前」と危機感を訴え、物価や賃金の上昇に応じた診療報酬の仕組みづくりが必要だとする
▼多くの医師は使命感を持って治療に当たっている。くだんの医師は例外的な存在だとしても、現場の疲弊に不安が募る。参院選では地域医療を巡る訴えがあまり聞こえてこないが、早急に手を打ってほしい。命を救う最前線の医師が、損得勘定で患者と向き合う事態はまっぴらごめんだ。
