停戦が見通せないまま、民間人を含む犠牲が増え続けている。米国の制裁を糸口に、和平交渉を進めなければならない。

 ロシアは真摯(しんし)に交渉に臨み、一刻も早く停戦を決断すべきだ。

 トランプ米大統領は、自身が仲介するロシアとウクライナの和平交渉に関して、ロシアが50日以内にウクライナとの停戦合意に応じなければ厳しい制裁関税を課すと警告した。圧力強化路線への大転換である。

 米メディアによると、ロシアからの輸入品に100%の関税をかける。ロシア産原油を輸入した第三国にも「2次制裁」を科す内容となる。9月上旬に発動の是非を判断する。

 警告に先立ってトランプ氏は、弾道ミサイル迎撃の要となる防空システム「パトリオット」をウクライナに追加供与することを明言している。ウクライナ支援の姿勢を相次ぎ打ち出した格好だ。

 トランプ氏はこれまで、対外関与を嫌う支持層に配慮してウクライナに肩入れせず、ロシアに融和的だった。

 トランプ氏が戦闘終結の目標としていた「就任6カ月以内」が20日に迫っているという状況に押された側面はあるものの、大きな転換となる。

 国際社会とともにロシアへの働きかけを強め、局面を打開してもらいたい。

 米国からの最後通告ともいえる制裁だが、どれだけロシアに影響を与えるかは不透明だ。

 輸入品に対する100%関税については、米ロ間の貿易が最低水準に落ち込んでおり、実効性は低いとの見方がある。

 2次制裁に関しても、ロシアから原油の輸入を増やしている中国は「一方的な制裁に断固反対だ」と批判している。

 中ロ関係は良好で、米国の警告ですぐに輸入を停止する可能性は低いとみられる。各国の足並みが乱れれば、制裁は骨抜きとなりかねない。米国は親ロ国とも対話し、和平への道を探る必要がある。

 戦闘の状況も厳しく見ていかなければならない。ロシアのプーチン大統領は、トランプ氏が米大統領に復帰してから半年間、少なくとも6回の電話会談を重ねる一方で、ウクライナ領内の占領地域を広げてきた。

 人口密集地も標的となり、国連ウクライナ人権監視団によると、ウクライナで6月に死傷した民間人は計1575人と過去3年で最多となるなど、攻撃はエスカレートしている。

 今回の制裁で米国が示した「50日以内」は猶予ではない。一日も早い停戦を迫られていることを念頭に、ロシアは戦闘終結へ踏み出さねばならない。

 ロシアが力による現状変更を狙って一方的に始めた戦争であることを忘れるべきではない。