本名以外の名で活動する人に話を聞く機会がある。画家は雅号、大相撲の力士はしこ名、芸名を名乗る俳優も多い。名に負う人もあれば、名前負け?と思われるご仁もいて興味深い
▼作家のペンネームにも物語がある。上越市出身の童話作家小川未明(本名・健作)の未明には夜明けの希望や期待の含意がある。江戸川乱歩(本名・平井太郎)が推理小説の始祖のエドガー・アラン・ポーをもじったのはつとに知られる
▼名前の使い分けはどこか服選びに似ている。仕事の日はスーツ、休みは普段着と、場面やTPOに応じて服を変える感覚だろうか。もう一つの名の自分になることで、仕事や創作活動の励みになる場合もある
▼こちらは必要に迫られて複数の名を持つケースだろうか。本名とは別に仕事で用いる「ビジネスネーム」が広がっている。一部の大手コンビニでは店の判断でスタッフの名札に本名以外の記載を可能とした。大阪府寝屋川市は市職員の仮名使用を認めた
▼背景には客らが理不尽な要求をするカスハラの深刻化がある。インターネットで個人情報が簡単に流出するようになって久しい。わが身を守るために別の名を、という気持ちも分からないではない
▼あまりに突飛(とっぴ)な名では勤務先の信頼が損なわれる恐れがある。同僚をどう呼んだらいいのか、職場での混乱も懸念される。一方で仮名や名無しの権兵衛では信用されない職種があることも忘れてはならない。ビジネスネームの浸透は殺伐とした世相を象徴している。