廃炉作業が極めて困難であることが、改めて浮き彫りとなった。計画通りに廃炉を実現できるのか、不安が増す。政府と東京電力は工程を明確に示し、安全かつ着実に作業を進めねばならない。

 東電は、福島第1原発の溶融核燃料(デブリ)の本格的な取り出しについて、3号機を皮切りに2030年代初頭に着手する目標から遅れて37年度以降にずれ込むと発表した。準備作業に12~15年程度かかるためという。

 デブリの搬出は、廃炉で最難関の作業とされる。

 1~3号機に計880トンあると推計され、それぞれの号機でデブリのある場所や形状、建屋の状況は違っている。

 2号機で昨年11月と今年4月に、試験的に採取したものの、計1グラム未満とごく微量だった。機材開発などで開始が遅れたほか、作業ミスも起こった。

 3号機での取り出しは、原子炉建屋上部に開口部を設け、細長いポール状の機器を差し込みデブリを砕いて底に落とし、側面からの装置で回収する方法を想定する。

 取り出す前に12~15年の準備工程が必要との案は、「想定通り進捗(しんちょく)した場合」との条件付きだ。技術的に不透明な部分があり、1~2年かけて精査するという。

 作業の妨げになる廃棄物処理建屋を、本格的に取り出す前に撤去する必要性も指摘された。廃液などが保管されており、こちらも難工事が予想される。

 1、2号機での取り出し方法に関しては、3号機での進め方が通用するのか分からない。取り出したデブリの処分方法や処分場所も決まっていない。課題はまだ多く残っている。

 疑問なのは、こうした状況にもかかわらず、東電が政府と定めた工程表「中長期ロードマップ」で掲げた51年までの廃炉完了とする目標を維持したことだ。

 目標の実現性について、技術面で助言する原子力損害賠償・廃炉等支援機構の更田(ふけた)豊志廃炉総括監は「元々困難だと感じていた。検討を進めれば進めるほど、より深刻に分かってきた」としている。

 専門家の言葉を重く受け止めるべきだ。現実を見据えた目標見直しが必要ではないか。

 東電はデブリ搬出に向けた準備作業の費用として、25年4~6月期連結決算で9030億円の特別損失を計上した。福島事故直後の3年間と同様に巨額赤字に陥る恐れがある。

 原発はひとたび事故を起こすと、長期にわたり経営面で大きな負担となり、採算に合わないことは明らかだ。

 廃炉の完了が不透明な中、東電柏崎刈羽原発を含め、政府が原発活用を推進していることも理解に苦しむ。国と東電は廃炉への確かな道筋を示し、福島の復興を成し遂げることを優先すべきだ。