内外に山積する課題はいずれも待ったなしで、政策実現にはスピード感が求められる。独断専行ではなく、野党と真摯(しんし)に議論を重ねる姿勢を求めたい。

 高市早苗首相が就任後初の所信表明演説を衆参両院で行い、政権の基本方針として「強い経済」を繰り返し強調した。

 「責任ある積極財政」をうたい、戦略的に財政出動すると言明した。「最優先で取り組むことは物価高への対応」とした。

 対策として、ガソリン税の暫定税率廃止法案の成立を挙げ、軽油引取税の暫定税率の早期廃止も目指すと訴えた。

 厳冬期の電気・ガス料金の支援に言及し、給付付き税額控除の制度設計に着手するという。

 高市氏は、経済対策の裏付けとなる2025年度補正予算案の成立に向けて「与野党で知恵を結集しましょう」と、野党に協力を呼びかけた。

 「政治とは、独断ではなく、共に語り、共に悩み、共に決める営み」という自身の言葉を、しっかり実行に移すことが必要だろう。

 保守色の濃い政策を巡り、与野党間に大きな溝が横たわる。

 防衛費では、27年度に関連経費と合わせて国内総生産(GDP)比2%に増額する目標を、25年度中に前倒し達成する方針だ。

 27年度までの5年間の防衛費を約43兆円とするなどとした安保関連3文書は26年中の改定を目指すという。防衛費のさらなる増額を目指すとみられる。

 日本周辺の安全保障環境が厳しさを増しているほか、トランプ米政権による防衛費増の圧力を回避する狙いがあるのだろう。

 防衛力の強化は、国民負担の増加につながる可能性もある。立憲民主党や公明党などの野党は警戒を強めている。慎重に審議するべきである。

 外国人問題では、外国人材を必要とする分野があるとする一方、一部の外国人による違法行為やルール逸脱に国民が不安や不公平を感じていると指摘した。

 高市氏は、担当大臣を置くなどして「政府として毅然(きぜん)と対応する」と述べ、規制に積極的な姿勢を示した。排外主義に陥らないよう、注意が必要だ。

 政治改革に関しては「全力で取り組む」と強調した。だが、自民党と日本維新の会の連立合意に盛り込まれた企業・団体献金の制度改革や、衆院議員定数の削減への具体的な言及はなかった。

 自民内にある異論に配慮したとすれば、高市氏の本気度が疑われかねない。

 所信表明演説に対する各党の代表質問は一連の首脳外交後、11月に実施される。

 野党は、多党化時代において、少数与党にどのように向き合い、政策を実現していくのか。その道筋を探ってもらいたい。