大きな節目を迎えたが、合意が確実に履行されるかどうかは見通せない。関税を巡る議論が終わったわけでもない。粘り強く交渉を続けなければならないだろう。
トランプ米政権は7日、各国・地域への新たな相互関税の適用を始め、日本に15%の上乗せ関税を発動した。
特例で負担軽減されるとしていた日本政府の説明とは食い違い、牛肉など幅広い品目で想定したよりも高い税率を課せられた。
米側は「大統領令を適時に修正する」というが、関税の発動直後、こうした事態に陥ったことは看過し難い。共同文書を作成しなかったことが一因だろう。
訪米中の赤沢亮正経済再生担当相は、ラトニック米商務長官に日米合意の履行を求めた。
赤沢氏によると、米側は今後、牛肉などに特例を適用し、輸入業者に過払い分をさかのぼって返還する意向を示した。
同じタイミングで、自動車に課している27・5%の関税を15%へ引き下げるという。
米側が特例を適用する時期について、赤沢氏は「常識的な範囲で対応すると理解している」などと述べた。米側は明示しなかったとみられる。
これでは、米側が確実に適用するかどうか、不安が拭えない。具体的な時期を明らかにするよう強く要求するべきだ。
自動車は4月、関税が2・5%から27・5%に引き上げられた。これにより、大手7社の2026年3月期の連結営業利益が最大で約2兆6700億円消失する見通しとなった。
自動車産業は裾野が広く、日本経済全体への影響も懸念される。
石破茂首相は「それぞれの産業に従事している方々に少しでも不安がないように全力を尽くしていく」と述べた。実効性のある支援策を早急に講じてもらいたい。
米国の相互関税は、約70の国・地域への税率が10~41%で、他の国は一律10%だ。トランプ大統領は交流サイト(SNS)で「何十億ドルもの関税が流れ込んでいる」と成果を誇示した。
相互関税は、米国が貿易赤字を解消し、国内産業を保護するため、相手国に課すものだ。
その手法は国際ルールを明らかに逸脱していたが、翻意を促す動きは乏しかった。
ほとんどの国は、米国に提示された税率の引き下げと引き換えに、要求を受け入れた。
第2次世界大戦後、世界経済の成長を支えてきた自由貿易体制が大きく後退したことは、残念と言うほかない。
米国は今後、医薬品や半導体にも高関税を課す構えだ。関税交渉は長期に及ぶ可能性が高い。
米国にこれ以上、保護主義的な動きを強めさせないために、国際社会は結束する必要がある。