あまりにもずさんな捜査が、冤罪(えんざい)を生んだことが浮き彫りになった。人の自由を奪う逮捕権の重大さを軽視していたと言わざるを得ず、極めて深刻な事態だ。

 内部の検証だけでは限界もある。第三者の視点も交え、再発防止への組織改革を急ぐべきだ。

 横浜市の機械製造会社「大川原化工機」を巡る冤罪事件で、警視庁は、公安部の捜査指揮系統の機能不全により違法な逮捕につながったとする検証結果を公表した。

 当時の公安部長ら退職者を含む19人の処分も発表した。

 検証によると、係長ら経験豊富な現場指揮官が摘発を第一に考え、捜査上の課題など消極的要素に注意を払わず、部下は方針に異を唱えにくい状況だった。捜査報告が形骸化し、部長らに消極的な情報がほぼ伝わらなかった。

 外為法を所管する経済産業省からは、大川原化工機の「噴霧乾燥装置」が規制対象になるか、疑義が示されていた。

 立件に躍起となる現場から、事件かどうかを左右する重要な情報が幹部に届かず、捜査の暴走を止められなかったということだ。

 意思疎通を欠く風通しの悪い部内で行われた捜査に愕然(がくぜん)とする。

 部長らが積極的に問題点を把握し、捜査方針を慎重に判断すべきだったとする検証の指摘は、当然のことといえる。

 再発防止策として、部長が取り仕切る捜査会議制度を導入し、消極的要素を含め報告させる。警察庁は外為法違反事件で、取り調べの録音・録画(可視化)の実施を全国の警察に指示した。

 警視庁トップの警視総監も会見し、逮捕した社長や元顧問ら3人に謝罪した。総監が不祥事で会見するのは異例というが、信頼回復への道は険しいだろう。

 最高検も検証結果を公表した。「消極証拠の確認や、実態を正確に把握することが不十分だった」と指摘した。

 拘留中に胃がんが判明した元顧問が保釈されず、被告のまま死亡したことは、「柔軟な対応を取るべきだった。深く反省しなければならない」とした。内部で十分に検討せず弁護人の保釈請求に反対していたと認めた。

 にもかかわらず、検察が担当検事を処分しなかったことは、納得できない。

 社長は「やってはいけないことをした罰をしっかり与えないと、組織は変わらない」と述べた。

 警視庁の検証も含め、第三者を入れずに行った検証結果に失望するのは、もっともだろう。

 冤罪が相次いでいる。1966年の静岡県一家殺害事件での袴田巌さんの無罪確定をはじめ、86年の福井中3殺害事件などで、司法への国民の信頼が揺らいでいる。

 人権を踏みにじる過ちは許されないとの強い危機感を持ち、捜査に当たらねばならない。