甲子園の勝利の女神は簡単には中越高にほほ笑まなかった。随所に好守も見せたが、要所でのミスが勝敗を分けた。全国屈指の強豪校を相手に精いっぱいプレーした結果なら、受け入れるほかない

▼県内では常に卓越した強さを誇る中越高だが、「聖地」での勝利はかくも難しいものなのか。1978年の初出場から既に半世紀に近いが、計12回の出場で勝利したのは、鈴木春祥前監督時代に2勝を挙げた94年の一度だけにとどまる

▼本田仁哉監督の就任後は、前回まで4度出場し初戦の惜敗が続いた。直近3回はいずれも互角の戦いの末、1点差のサヨナラ負けを喫していた。指導陣や選手は、足りないものを探し続ける苦悩も重ねてきただろう

▼新型ウイルス禍にも翻弄(ほんろう)された。2020年には県王者になったが、甲子園大会中止という悲運をかみしめた。翌年は集団感染で県予選の出場辞退に追い込まれ、言葉にしようもない喪失感を味わっている

▼選手は毎回毎年入れ替わるけれど、悔しさも達成感も経験値も、蓄積し受け継いできたのが伝統校の強みといえる。今年は敗れたとはいえ、全国の野球ファンが注視する憧れの舞台でプレーできた喜びを、チームの財産にしてほしい

▼鈴木前監督の就任30年目に中越高が甲子園で初勝利したとき、苦節の歩みを知る先輩記者は泣いていた。それから再び30年が巡っている。ドラマをつむぐには機が熟した。捲土(けんど)重来を期す中越高と、しのぎを削り合う県内他校の戦いにこれからも期待する。

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