「あふれるような太陽は、風景をおののかせ、非人間的に、衰弱させていた」「太陽のため額がふくれあがるように感じた」。旧フランス領アルジェリアで生まれたノーベル賞作家カミュは、自著「異邦人」の中で、耐えがたい暑さを随所に描写している。主人公ムルソーは殺人を犯してしまうが、動機を「太陽のせい」にしたほどだ

▼国内で気温が40度を超える日が続出した今年の夏である。熱中症で人が亡くなったというニュースに接する日もよくあった。暑さが人命を奪う点では、ムルソーの論理に通じるものがあるだろうか

▼子どものころは楽しく過ごした夏が、年々つらくなってきたのは、年を重ねたためだけではないだろう。尋常ではない暑さなど気候変動は太陽のせいではないけれど、目を細め、中天にかかるお天道さまを見上げると、勘弁してよと弱音の一つも吐きたくなる

▼非情な暑さは長年親しんだ夏の風景を変えている。甲子園球場の全国高校野球大会もその一つだ。いよいよ今日から準々決勝だが、初日の開会式が午後4時から始まったのには驚かされた

▼試合も一日で最も暑い時間帯を避け、午前と夕方の2部制で行う日程が増えた。それでも暑さのためか脚をつる選手が相次いだ。猛暑対策はまだ改革途上なのだろう

▼真夏の過酷な太陽に負けず、はつらつとプレーする選手、アルプススタンドで懸命に声援を送る応援団。こうした姿から、げんなりとした身体に元気をもらっている、残暑厳しい、この夏である。

朗読日報抄とは?