国際社会の制止を顧みぬ暴走である。犠牲者をこれ以上増やしてはならない。イスラエルは直ちに地上侵攻をやめるべきだ。
イスラエルのネタニヤフ首相は16日、パレスチナ自治区ガザのガザ市で「強力な作戦を開始した」と述べた。イスラム組織ハマスの壊滅を目指すとみられる。
米メディアによると、大規模な空爆を実施後、戦車が市内に入った。市内には数十万人の住民がとどまっており、侵攻で多数の死傷者が出た。
侵攻が進めば、被害の拡大は必至だ。2023年10月に始まったガザでの戦闘は、極めて重大な局面を迎えたと言わざるを得ない。
国連の調査委員会はネタニヤフ氏らがパレスチナ人に対する「ジェノサイド(民族大量虐殺)」を扇動したと結論づけた。8月には、イスラエルが境界封鎖を続けたことにより、ガザ市で飢饉(ききん)が起きたと認定している。
ガザ保健当局によると、死者は6万5千人に迫る。飢餓などによる死者は420人を超えた。
イスラエル側の被害も深刻だ。現地メディアによると、死亡した兵士は900人以上となった。ハマスに拘束されている人質は20人前後が生存し、ガザ市で捕らわれている可能性がある。侵攻は人質を危険にさらす恐れがある。
停戦は一刻の猶予もないはずだ。阻害する原因がイスラエル側にあるのは明らかである。
政権与党に加わる極右政党は、停戦すれば連立から離脱すると警告している。ネタニヤフ氏は、政治的な延命策として戦闘を続けているとの見方が広がっている。保身のため人命を犠牲にしているとすれば、断じて許されない。
イスラエルの後ろ盾である米国の姿勢も看過できない。
ルビオ米国務長官は15日、エルサレムでネタニヤフ氏と会談した際、地上侵攻が長期化しないようくぎを刺しながらもトランプ米政権は支持するとの意向を伝えた。トランプ氏が親イスラエルの右派を支持層に抱えているためだ。
大国としての責任の重さを自覚するべきだ。
国連のグテレス事務総長は16日、ガザ市への地上侵攻を「容認できない」と批判した。同時に、パレスチナ国家樹立によるイスラエルとの「2国家共存」しか解決策はない、と訴えた。
フランスや英国、カナダなどは近くパレスチナを国家承認する見通しだ。フランスと英国は、日本に承認を働きかけている。
日本政府は2国家共存を支持しながらも、承認は見送る方向だ。イスラエルが態度を硬化させ、情勢が悪化することを懸念したほか、米国に配慮したとみられる。
しかし、情勢はさらに悪化の一途をたどろうとしている。停戦のために日本は何をするべきか、真剣に考える時に来ている。