眉間のつぼ「印堂」に陰りがあるといけない。半信半疑の客の顔を見ながら寅さんが諭す。映画「男はつらいよ」に出てくる商いの場面だ。人相を手掛かりにひともうけをたくらむ

▼寅さんの卓説の真偽はともかく、顔つきから性格や運命を判断する人相学の歴史は古い。かのピタゴラスやプラトンも研究し、アリストテレスは古代西洋人相学の礎を築いた。日本でも江戸期に南北相法を著した水野南北が名高い

▼人相の中でも目は最も大切な部分とされる。怒りに震えれば三角にし、悲しい時には涙がにじむ。目は口ほどに物を言う。マスクで表情が分かりにくくなった分、以前にも増して目と眉の動きが気に掛かる

▼自動車の前面をフロントマスクとも呼ぶ。二つのライトを目、グリルを口に見立てればうなずける。三つの点が集まると人の顔のように見えるシミュラクラ現象が作用しているのかもしれない

▼気のせいか、最近は「目力」のある車が増えた。切れ長で眼光鋭いこわもてが目立つ。見た目を重視するメーカー側の戦略も透けて見える。屈強なボディーのスポーツタイプ多目的車(SUV)の浸透も相まって、威圧感すら醸し出す

▼少しずつだが感染禍も落ち着きを見せ、出歩く人が増えた。過日訪れたスーパーでも車が連なっていた。ミラーで後ろを見ると人も車も目がつり上がっている。運転にイライラや焦りは禁物、せめて穏やかなまなざしでハンドルを握りたい。印堂を押すと気持ちを落ち着かせる効果があるという。

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