
藤原辰史さん
大きな石をくくりつけた縄を足首に結わえられた人たちが、一人、また一人と海の中に放り投げられ、黒い水底へと沈んでいく。口から吐かれる泡が海面に浮かび、絶えることがなかった―。
済州島を訪れた。朝鮮半島の南に浮かぶ火山島である。青い海と黒い岩にふちどられた島の中央にはなだらかな漢拏山が鎮座し、島に訪れる雲をまるで帽子のようにとっかえひっかえ頂にのせている。噴火して地中からあらわれた奇岩と冷えた溶岩がつくる風景は壮大で、さながら自然が彫刻した作品のようだ。
イタリアの火山島シチリアに似ていると感じたのは、こうした風景だけではない。土壌の堆積が少ないという欠点を補って余りあるほどの海産物、かんきつ類...
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