
「うわべの名画座」
「顔見道」なる道がある、と直木賞作家・姫野カオルコさんは言い張る。姫野さんがただ1人の求道者となって60年。幼少期から周囲の「顔色」をうかがってきたからこそ、他人の「顔の造作」を見て暮らしてきた。その鋭い観察眼を、名作映画を彩る俳優から人気野球選手にまで向け、率直な批評を、愛を持ってつづったエッセー集だ。
例えば、映画「福田村事件」(森達也監督、2023年公開)。関東大震災直後、現在の千葉県で行商人ら9人が虐殺された事件を基にした作品だ。公開翌日に見て「力作」と感銘を受けた著者だが、作品評論はしない。対象はあくまで「うわべ」である。
出演者の名演が光る中、特に注目したのは水道橋博士。なぜなら...
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