10年ほど前に勤務していた東京支社時代にもらった名刺を整理していたら「衆議院議員 赤澤亮正」と書かれたものが出てきた。石破茂首相の最側近として日米関税交渉に当たった赤沢経済再生担当相の名刺だった

▼赤沢氏とは旧新潟5区選出の自民党衆院議員、故長島忠美さんの親族が経営していた都内の飲食店で偶然出会った。長島さんに紹介され名刺を交わしたことを覚えている。石破氏と同じ鳥取県の選出だが、当時は無名の政治家だった

▼「安倍1強」と呼ばれた第2次安倍政権以降、石破氏は冷遇され続けた。だが5回目の挑戦で自民党総裁の座を射止め首相に選出されると、潮目は変わった。赤沢氏は日米関税交渉の担当閣僚に抜てきされ、トランプ米大統領と対面で渡り合うなどスポットライトを浴びる立場となった

▼ところが石破氏は総裁選前倒しを求める党内の声に押され、志半ばで首相を退任する。信頼していた同志に裏切られた際、シェークスピアの戯曲「ジュリアス・シーザー」にある有名なせりふ「ブルータス、おまえもか」を引いたという

▼総裁選は22日に告示される。赤沢氏は今後も石破氏と政治の道を歩むなら、いばらの道を覚悟しなければならないかもしれない

▼政界の浮き沈みは激しく、無常観さえ感じることもある。そんなとき、シェークスピアの「お気に召すまま」にあるせりふが頭に浮かぶ。「この世界はすべてこれ一つの舞台、人間は男女を問わず、すべてこれ役者に過ぎぬ」(小田島雄志訳)

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