雲って、こんなにきれいなものだったかなと思いながら、晴れた日に空を見上げる。日差しの強さにうんざりしていたせいか、この夏はまじまじと空を見ることもなかったのだと今になって気付く

▼秋の雲といえば、高い空に浮かぶいわし雲やひつじ雲が代表的だが、中には積乱雲も見える。輪郭がくっきりとして立体的な積乱雲には見入ってしまうことがある。自然の造形美は眺めていて飽きない

▼遠目には壮観でも、積乱雲の真下は土砂降りになることが多い。連なれば線状降水帯にもなる。大気が不安定な状態で発生した雲の内部では、水蒸気や水、氷粒が互いに作用し合う。夏場でもあられや雪が生成され、降下とともに雨となる

▼折しも自民党総裁選が告示された。強力な石破「おろし」で漂うもやを吹き飛ばした後、もくもくと発達する積乱雲のような党の内部で、仲間同士が駆け引きし合う権力闘争を繰り広げている-そんなイメージを重ねる

▼自民党にとって、低迷する党の復権に向けた重要な選挙と位置づけられる。激しい雨が降ったとしても、地を固めた後に秋晴れの空を拝みたいところだろうか。ただ、衆参の両院が少数与党の現状で、新総裁は強靱(きょうじん)な胆力がなければやりきれぬ役回りである

▼視界が晴れない雲煙模糊(もこ)の政治状況を脱して、試練を乗り越える雲外蒼天(そうてん)を実現できるか。自民党員以外は蚊帳の外だけれど、新総裁が首相に最も近い立場になることは間違いない。まずは候補一人一人の言葉に耳を澄ませる。

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