防衛力を一段と強化するよう促すものだ。憲法の基本原則、平和主義を後退させ、地域の緊張を高める懸念が拭えない。

 防衛省の有識者会議が、防衛力に関する報告書をまとめた。

 防衛力整備計画の見直しや、防衛装備品の輸出に関するルールの緩和、原子力などを動力とする潜水艦の研究を求める内容である。

 報告書について、中谷元・防衛相は「大いに活用したい」と述べた。安全保障環境が厳しさを増しているとはいえ、重大な政策変更となれば、国民の理解を得られるのか、首をかしげざるを得ない。

 現行の防衛力整備計画は2023年度からの5年間で防衛費総額を計約43兆円とする内容だ。それ以前の計画の1・5倍超となる。

 報告書は、国際情勢や戦い方の変化を踏まえ、計画を見直し、防衛費を増額するよう促した。

 しかし、現行計画でさえ、政府は財源確保に苦労している。一層の増額に踏み切れば、国民負担の増加は避けられまい。

 防衛装備品について、政府は「救難、輸送、警戒、監視、掃海」に限り、輸出を容認している。

 報告書は「防衛力の抜本的強化と経済成長の好循環につながる」として、輸出ルールの緩和を求めた。他国から脅威を受けている友好国には、殺傷能力のある武器も含め「制限を設けないとする考え方も一案だ」とした。

 武器禁輸政策を転換した14年の「防衛装備移転三原則」決定以降、輸出は拡大の一途だ。国際紛争を助長する事態を憂慮する。

 潜水艦を巡っては「長射程ミサイルを搭載し、長距離、長期間の移動や潜航を可能にすることが望ましい」と指摘した。

 その上で、原子力を念頭に「次世代の動力」の検討を求めた。

 原子力潜水艦は通常、核を含むミサイルを搭載して隠密潜航させる目的で保有する。

 仮に日本が導入すれば、専守防衛の理念や、「原子力の平和利用」を掲げる原子力基本法との整合性が問われる。国内外から激しい反発を受けるのは必至だ。

 集団的自衛権の行使を可能にした安全保障関連法の成立から10年となった節目に、平和主義を揺るがしかねない。

 防衛省は今年、日米の連携を加速させるため、陸海空3自衛隊を一元的に指揮する「統合作戦司令部」を新設した。他国のミサイル基地などを破壊する反撃能力(敵基地攻撃能力)に活用する長射程ミサイルの配備にも着手した。

 一連の取り組みによって、中国やロシア、北朝鮮への抑止力を強化しようという狙いが伺える。一方で、対立を先鋭化させる危険性もあるのではないか。

 ひとたび軍事衝突が起き、そこに巻き込まれれば、抜け出すのは容易ではない。リスクを下げる道も模索しなければならない。