「頂芽優勢」という言葉がある。少年マンガの主人公が繰り出す必殺技のような語感だが、意味は全く違う。「ちょうがゆうせい」と読み、植物の特性を表している
▼例えば、バラだ。バラは最も高い位置にある芽(頂芽)に、優先的に栄養を送って枝を成長させる。頂芽が伸びている間は、それより下にある芽(側芽)は成長を抑えている
▼一番高い位置の芽を優先して伸ばすことで、より高いところまで茎を伸ばし葉を広げ、光を効率的に浴びて光合成をする。頂芽をせん定すると、次に高い位置にある側芽が頂芽になり優先的に成長する。この特性を生かして、バラの樹形を整えていく
▼生存競争の激しい自然界で、植物が生き残っていくための知恵なのだろう。他の草木に覆われていては、十分に日の光を浴びられない。最も条件のいい芽を、上へ上へと成長させることが繁栄への近道ということだ
▼一方で、植物の世界のセオリーがまかり通るような社会は、暮らしやすいだろうか。仕事で先頭を走る人の給料を最優先で引き上げる。トップの力を持つ企業・団体に資金を集中する。大企業や富裕層がまず潤うことで、富が地方や中小企業にしたたり落ちることを狙ったアベノミクスの「トリクルダウン」も同じ考え方だった
▼勢いよく伸びるバラの頂芽をせん定することはもったいなく感じるが、高く伸びた1本の枝先に咲くだけでは少し寂しい。整えた多くの枝先に数多く咲く姿にこそ引かれる。それは人の世界でも同じだろう。