間もなく退任する石破茂首相が、同志に裏切られた際「ブルータス、おまえもか」とのせりふを引用したと、先日の小欄で紹介した
▼その言葉を暗殺される時に叫んだとされる、古代ローマのユリウス・カエサル(ジュリアス・シーザー)。志半ば、無念の思いを抱いた点では、石破さんと共通するかもしれない
▼そのカエサルは万が一の時のために、遺言状をしたためていた。死後、部下らがその遺言状を開いてビックリ。カエサルが後継者に指名したのは、ともに戦った部将や有力議員ではなく、オクタビアヌスという世間では全く無名の18歳の青年だったからだ
▼当初こそ若造だと見下されたが、この若者は徐々に力を付けた。ブルータスらカエサル暗殺者たちを滅ぼし、後継を狙うアントニウスとエジプト女王クレオパトラの連合軍を破り、初代ローマ皇帝になる。長く続く帝国の礎を築き上げ、パックス・ロマーナ(ローマの平和)をもたらした。でも何より驚くのは彼を後継指名したカエサルの人を見抜く力だ
▼話を現在に戻そう。石破さんの後継を争う自民党総裁選は最終盤。石破さんは1年余りの短命政権になる。かつても首相がころころと変わる時期があったが、こんな事態を繰り返すなら生活に直結する政策は決まらず、国際的信用も失墜してしまう
▼迫力を欠く内向きな論戦に終始する選挙戦で、安定した政治をもたらす力のある人物を見抜き、選ぶことができるか。自民党国会議員や党員・党友の眼力が試される時だ。