何度もはね返された壁を乗り越えた。日本中央競馬会(JRA)の三浦皇成(こうせい)騎手が、最高格付けのG1レースを初めて制したのは9月の終わりだった。デビューから18年、実に127回目の挑戦でようやくつかんだ勝利だ

▼第一人者の武豊騎手に憧れてプロになり、1年目から活躍した。武騎手の持つ新人の最多勝記録を更新し、最速でJRA通算100勝に到達した。数々の記録を塗り替え「武豊2世」と称された

▼G1を勝つのも時間の問題と思われたが、頂点に届かない。2016年には落馬で肋骨(ろっこつ)や骨盤を折る大けがを負い、約1年の休業を余儀なくされた。「もう勝てないんじゃないか…」。心が折れかけた

▼歓喜の瞬間は今秋のG1初戦、中山競馬場のスプリンターズステークスで訪れた。ゴール前は武騎手の馬と激しく競り合い、わずかに抜け出したところがゴールだった。11番人気の低評価を覆す激走を見せた

▼武騎手から「おめでとう、長かったな」と声をかけられ、こみ上げるものがあったという。さらにスタンドの三浦コールで感極まった。「騎手をやっていて一番幸せな時間」を18年越しで手にした重みを、ファンも分かっていた

▼新潟市西区出身の小林美駒(みく)騎手もこの日、同じ競馬場で騎乗していた。夏の北海道で20勝を挙げ、デビュー3年目は大きく羽ばたいた。GIは既に出場資格を得ているものの、騎乗はまだない。負けん気の強い彼女のことだ。先輩の晴れ姿を見て「いつか私も」と心に刻んだことだろう。