先日101歳で死去した村山富市さんが1994年に首相指名されたときのことを、村山さんの対談本で知った。連立を組む自民党と政策のすり合わせはしたが、自民側が自分への投票で意思統一したとは知らないまま指名を受けたという

▼〈びっくりした。みんな後で聞いた。喜ぶような実感は全然ない〉。就任の打診を断っていたのだから無理もない。テレビで結果を知った奥さんは電話口で「お父さん、大変なことになったけれども大丈夫?」と言ったとか

▼村山さんはレアケースだとしても、昨日はずいぶん趣が違った。自民党総裁の高市早苗さんが首相に選出された。「ぎりぎりまであらゆる手を尽くす。絶対になってやる」と意欲をみなぎらせた人は、投票結果を聞くと軽く目を閉じ、深い安堵(あんど)をにじませた

▼日本で初の女性首相である。女性参政の道のりを踏まえれば気負いもあるだろう。「働いて働いて働いて…」の宣言もあった。一生懸命はいいけれど、前のめりになり過ぎるのは心配だ

▼近頃は笑顔づくりを意識しているように見えるが、勇ましい右傾化が強まっていくだろう。一定の歯止め役を果たした公明党は連立を離れ、新たなパートナーはタカ派色の濃い日本維新の会になった

▼村山さんは連立の内側から見た当時の自民党を、派閥間で絶えず議論して〈民主的な運営には練れている。その点、見直したね〉と評した(「村山富市の証言録」)。党内の様相は変われど、今もそんな気風が残っているといいのだが。