何だか奥歯がしみるような感覚があって、歯科医を訪れたのは去年のことだった。いつ以来か思い出せないほど久しぶりに診察台に横たわった。1年かけて何本かの治療が一段落し、先日からは定期健診に通うよう言い渡された
▼歯科医通いがすっかり日常の一コマになったが、例のギュイーンという音にはいまだに慣れない。というよりは苦手である。大口を開けているのだけれど、歯の根が合わないような恐怖感に包まれる
▼体をこわばらせながら、ふと思った。体の各部位同様に歯のつく言い回しや慣用句も数多くある。歯が立たない、歯切れがいい、歯に衣(きぬ)着せぬ…。食生活を支える歯は、それだけ人が生きていく上で重要な存在といえるのだろう
▼歯をはじめ、口の中の状態が悪くなると全身の健康にも影響することはよく知られる。虫歯の原因となるミュータンス菌の一種は脳出血のリスクを約4倍に高めるという。歯周病菌の一種も糖尿病の要因になるそうだ
▼10日までは「歯と口の健康週間」である。政府は全国民に毎年の歯科健診を義務づける「国民皆歯科健診」の導入に向けた検討に入るようだ。口の中の健康を守って他の病気の誘発を防ぎ、医療費の抑制につなげる狙いという
▼狙いは悪くないとして、具体的にどう実現するか課題は多そうだ。わが身を振り返っても、不調を自覚して初めて歯科医の玄関をくぐる気になった。健診など「歯牙にもかけない」とばかりに、国民にそっぽを向かれるような事態は避けたい。
