秋が深まるこの時季は例年、農村部にある家屋敷が枯れかけた草木に覆われたままでも、ほったらかしておく。普段は人が住まず、じきに雪が降るからと横着をしているのだが、今年はそうもいかない

▼地域では学校の近くなどあちこちでクマが出た。全国で人身被害が多発している。クマが家の草やぶに身を潜ませかねないと思えば、心静かではいられない。先週末、草刈り機を担いだ

▼庭には品種が違う3本の柿の木もある。とても食べきれる量ではない。草やぶと同様、鈴なりの実は近所の人にとって不穏な風景だろう。心を決める。地面にシャベルで穴を掘り、柿を埋めることにした

▼枝を落とし、ひたすら実をもぎ続ける。100個前後入る穴を九ついっぱいにしたところで、この日は力尽きた。柿の木には、まだ恨めしいほど実がなっている。残りは次の週末か。気が重くなる

▼山の実は凶作だというのに、庭の柿は豊作だ。皮肉なものだ。腹をすかせたクマは、餌を求めて人里をさまよう。こちらは大量の柿の処分で疲れ果てる。世の中はうまくいかない。そのうまくいかない現場が、地方に偏っているのが切ない

▼人口が減り、若者が去り、過疎が進む。そんな地域で、クマを恐れて散歩もできない高齢者がいる。クマの出没につながる里山の荒廃は、ムラ人の責任なのか。空き家が増え、公共交通も商店街も細りゆく地方で、のどかな秋を味わうささやかな楽しみすら奪われる。クマには罪がない。それだけにやりきれない。