「あちらを立てればこちらが立たぬ」と言う。一方によいように計らうと、もう一方には悪くなってしまう。とかく物事は両立させるのが難しい

▼似た言い回しも多い。「出船によい風は入り船に悪い」「猫が肥えればかつお節が痩せる」。目の前のスイーツを食べたいけれど、ダイエットが台無しになりそう。妻と母親の言い分の板挟みになって…。暮らしの中でも、双方が並び立たない場面には頻繁に出くわす

▼与えられた条件の中で精査した結果なのだろうが「あちらを立てれば…」だなぁ。本県の新たな衆院小選挙区の区割り案を見て、こう思った。「1票の格差」是正を目的に本県の小選挙区は6から5に減る。それに伴い、区割りも見直される

▼生活圏が分割されるなどして違和感を抱く人もいるだろう。例えば、新潟市西区は中央区などと分かれて三条市や燕市など県央地域と同じ選挙区になる。生活圏や文化圏があまり重ならない頸城地域と魚沼地域もひとくくりになる

▼別の枠組みにするにしても、利点もあれば欠点もある。各方面がこぞって納得する解を導くのは至難だ。生活圏や文化圏の違いは従来の選挙区にもあった。今回の区割り案では、一つの行政区の中に複数の選挙区が入り乱れるような状況は減った

▼政党にとっては候補者調整が頭の痛い問題になる。新選挙区に複数の現職が出馬の意向を示す場合にどうするか。「あちらを立てれば…」の後に、こんな言葉を続けることもある。「両方立てれば身が立たぬ」

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