紙面を読んでいると、どきりとする言葉に出合うことがある。「ニュースは、人間を数字にするから」。俳優でモデルの長井短(みじか)さんが書評の中で記していた
▼社会の中で起きた出来事を報じるとき、その規模や信ぴょう性を裏付ける意味でデータは不可欠だ。しかしデータはあくまで数字に過ぎない。例えば「事故で○○人が死亡した」と報道されたとする。命を落とした一人一人にはそれぞれの人生があったはずだが、数字だけでは命の重みが十分には伝わらない
▼長井さんが紹介していたのは「〈ガザ〉を生きる」という本だった。絶えず外部からの攻撃にさらされてきた人々による手記が収められている。文面からは「天井のない監獄」と呼ばれるガザの惨状や、かの地で暮らす人々の息遣いが伝わってくる
▼ある女性は落ち込んだときの慰めにと、クマのぬいぐるみをたくさんベッドに置いていた。けれど、その家は破壊され、友人を何人も亡くした。人間の存在が切り刻まれていると訴え、叫ぶように記した。「私はただの数字じゃない。夢も感情もある人間だ」
▼ガザ当局によると、2023年の戦闘開始以来の死者はことし1月時点で7万人を超えた。ロシアのウクライナ侵攻では、米国の研究所が両軍の死傷者の合計を最大180万人と推計した
▼途方もない数字の裏には同じ数の人格と生きざまがある。だが日々のニュースではなかなか伝えきれない。もう一度、前述の女性の言葉をかみしめる。「私はただの数字じゃない」
