京都大教授の山中伸弥さんは、実業家の稲盛和夫さんと対談した時のエピソードを月刊誌で明かしている。ノーベル生理学・医学賞の栄誉を手にした山中さんだが「まだまだアマチュアなのだ。勘違いしてはいけないと痛切に感じた」と自戒したという

▼山中さんは趣味で走るフルマラソンと、全力疾走する短距離走との対比を引き合いに話題を振った。「研究開発も長い歳月を要します。途中で息切れしないようにペース配分を考えて毎日頑張っています」

▼相づちを打ってもらえると思っていただろう。稲盛さんに「僕は違う。いつも全力疾走だ」と言われ、話の腰を折られてしまう。京セラを創業し一流企業にした稲盛さんは、常に全速力で走らなければ勝負にならなかったと、自らの歩みを述懐したという

▼山中さんには少し同情する。ただやはり、この医療技術は全速力で実用化に向かってほしいと願わずにいられない。山中さんにノーベル賞をもたらしたiPS細胞を使う再生医療等製品が、国内で製造販売される道筋が開けた

▼重症心不全とパーキンソン病を対象とする2種類で、7年の承認期限内に有効性が確認されれば本格的な実用化に至る。iPS細胞由来の再生医療では、糖尿病、がん、脊髄損傷などの治療や創薬でも進展が期待される

▼山中さんらによる初のiPS細胞作製から20年の歳月を経た。病気に苦しむ患者を救う研究に心血を注ぐ人々に最大限の敬意を抱きつつも、つい思ってしまう。さらに全力疾走でと。