「下地塗りを始めました」との連絡をもらい、新発田市出身で石川県輪島市の塗師、上野芳和さん(54)を先日訪ねた。自宅の和室が作業場だ。ヘラを使い丁寧に漆を重ねる作業を見せてもらった
▼上野さんに、自身が開発した輪島塗スピーカーの製作をお願いしたのは2024年暮れ。その年の夏に新潟日報メディアシップで開かれた試聴会で、音の響きに感動した
▼24年は元日に能登半島地震、9月には豪雨に襲われた。地震で上野さんが勤める工房は甚大な被害に遭った。ただ、ヘラなどの道具類は無事だった。使用する木は通常10年以上自然乾燥させる。しかしスピーカー用の厚い材料は在庫がなく、人工乾燥の技術を持つ会社の協力で、品質の変わらない木地を調達できた
▼輪島塗は何度も漆を塗り重ねる。その都度、時間をかけて乾燥させる。多くの工程を経て高い強度に仕上がる。それが音響の良さにつながっているという
▼輪島市内も回ってみた。焼け野原となった朝市一帯は立ち入り禁止となっていた。店は商業施設に移って頑張っていた。仮設住宅があちこちで見られた。上野さんの勤め先を含め、再建の見通しが立たない工房も多い
▼待望のスピーカーができるのは今年末くらいだという。「製品に狂いが生じることのないよう進めていく」と上野さんは職人気質をのぞかせる。これまでに輪島塗のレコードプレーヤーも開発した。次の製作にも意欲を燃やす。厳しい状況にある伝統産業の中で、新たな力になってほしい。
