昨年のストーカー事案の摘発件数は全国で過去最多だった。3月には東京の池袋で痛ましい事件も起きている。加害者のカウンセリングの義務化が課題とされてきた中で貴重な人が旅立ってしまった
▼「『ストーカー』は何を考えているか」の著者小早川明子さんが、がんで2月に亡くなった。66歳だった。自らの被害を契機に1999年からストーカー被害者を支援する活動を始めた
▼心理カウンセラーとして多くの加害者にも向き合った。被害者に危険が及ばぬよう果敢に行動したこともある。地下鉄の運転士をする加害者を追い、運転席の真後ろに座って終電まで待った。名乗り出ると加害者は観念して話し合いに応じたという
▼設立したNPO法人「ヒューマニティ」の語源はラテン語の「腐植土」。著書では人間について「良くも悪くもさまざまな要素が交じり合った腐植土、どうしようもない存在と感じます」と記した
▼一方で「徹底したカウンセリングによって、ひねくれた腐植土の中に芽を探し出し開花させること」に意義を求め、新たな方向へ導こうとした。加害者の感情を受け止め、吐き出させ、ストーカー行為を止めるまでを支える人材が増えることを願った
▼著書にはあとがきの代わりに高村光太郞の詩があった。〈もう止(よ)さう/ちひさな利慾(りよく)とちひさな不平と/ちひさなぐちとちひさな怒りと/さういふうるさいけちなものは/ああ、きれいにもう止さう〉。ストーカーを含め、悩み苦しむ人たちへ贈りたいという。
