「ネコがね、私が階段を上る時、振り返り振り返り一緒に歩いてくれたの」と、80代の母から報告があった。ゆっくりとしか家の階段を上れない母を、飼いネコが心配してくれたというのだ
▼ネコは本当に母を思いやったのだろうか。科学的にネコの心理を解き明かす挑戦をつづった「知りたい! ネコごころ」が興味深かった。著者の高木佐保さんは京都大学大学院時代にチームでネコ研究に着手。何年もかけて一般家庭やネコカフェへ足を運び、数百匹を対象に「食べ損ねた皿の位置を覚えているか」など実験を重ねた
▼その結果、ネコは経験を記憶し思い出を持つことや、箱の中のものを推理できることなどが明らかになった。漠然と想像していた「ネコごころ」が、さまざまな実験で裏付けられるのが面白い
▼この知見を参考に、母へのネコの思いを分析してみる。母と2階に来たネコは、エサ皿の前で「ニャア」と鳴いたという。経験から空の皿を見せればご飯がもらえると推測、歩みが遅い母の進行を確認しながら目的地へ導いた、というところか
▼共通言語を持たない相手の心を知るには、努力が必要だ。よく観察し、経験を吟味し、最善の行動を選ぶ。母を先導したネコの思いを想像すると、感心しつつほほえましい
▼言葉で意思疎通できる人間社会はどうか。身近でも世界でも独善的な言説があふれる。さまざまなハラスメントも後を絶たない。ネコのように相手を知ろうと努めれば、もう少し楽しい世界になるのかにゃあ。
