新潟の春は一気にほころぶ。雪の消えた田畑へ山野へと人々が急ぐ。そんな土に親しむお一人が先日、本紙「窓」欄に便りを寄せていた。かつては苦痛だった草取りが、楽しくなったという85歳の男性だ
▼心境の変化は、草の名や生態を学んだから。今では仲間のような気持ちで草に話しかけるという。「かんべんな、おめさんの名前をまた忘れたて」「もう忘れたんか。おらは『クルマバザクロソウ』だて」。なんと心弾む草いじりか
▼かの人も、どれほど草花と語り合ったことだろう。「日本植物学の父」と称される牧野富太郎である。〈朝夕に草木を吾れの友とせばこころ淋しき折節もなし〉と歌に詠んだ(「牧野富太郎 植物博士の人生図鑑」)
▼明治期の旧制小学校を中退し、独学で植物学を学んだ。約40万点の植物標本を収集し、新種や新品種など1500種類以上に命名した。目立たぬ外来の草にクルマバザクロソウという和名を付けたのも牧野だ
▼時に学歴の壁に阻まれながらも、研究の集大成として刊行した「牧野日本植物図鑑」は今も読み継がれる。「天性好き」と本人が語った植物の研究に打ち込んだ94年の生涯を、牧野を主人公のモデルにした2023年放送のNHK朝の連続テレビ小説「らんまん」で見た人も多いだろう
▼きょうは「植物学の日」。牧野の誕生日にちなむ。功績をたどる中で、老境に残した〈わが姿たとえ翁と見ゆるとも心はいつも花の真盛り〉の歌を知った。「好き」を貫いた生き方がまぶしい。
