人間の脳の情報処理には、速い思考と遅い思考の二つの回路があるという。社会学者の伊藤昌亮さんが月刊誌「潮」5月号でふれていた。どちらも必要なのだが、物事をじっくり論理的に考えると負荷がかかるので、人は速い思考を好みがちだという
▼パターンや直感を頼れば手早く結論に行き着く。ネットを介した膨大な情報に取り巻かれていては、遅い思考が出る幕はない。ただ「国を二分する政策」を前にした今、遅い思考こそ求められていると伊藤さんは指摘する
▼高市首相は「時は来た」と憲法改正への意欲を隠さない。自民党も改正が「死活的に求められている」と大仰に息巻く。大勝した衆院選の余勢を駆って突き進もうというところか
▼首相は2月、選挙応援に来た上越市で「憲法になぜ自衛隊を書いちゃいけないのか」と問いかけた。命懸けで国防にあたる自衛隊員の誇りを守るためにも、憲法改正は必要だと訴えた。本丸は9条だろう
▼現行憲法は戦力の不保持をうたうが、自衛権の行使を裏付ける実力保持は認められると解釈されており、防衛白書にも明記される。自衛隊は国民の間に定着している。あえて「誇り」を持ち出す意図に危うさが漂う
▼あからさまな自国第一主義に傾く米国も危うい。関係性の紡ぎ直しを含め、わが国の安全保障の在り方が確かに問われている。今年の憲法記念日は、国会での改正論議がこれまでにも増して活発化する中で迎えた。せかされることなく、考え抜く力を研ぎ澄ます時である。
