昨年1月の議会襲撃事件では、米国の民主主義がいかに傷ついているかがあらわになった。その価値を世界に説いてきた大国で、大統領選に不正があったと一方的に思い込んだ群衆が、民主的な手続きの中枢ともいえる議会を占拠した

▼日本では国民主権の根幹である選挙のさなか、街頭演説に臨んだ元首相が凶弾に倒れた。動機は何であれ、暴力による口封じと指弾されるべき行為である。私たちが生きる上で欠かせない理念だと信じてきた民主主義は、世界各地で激しい攻撃を受けている

▼民主政治は意思決定などの効率が悪いという見方がある。疫病の感染拡大など重大事態に直面した際は、為政者が単独で方針を決めた方が素早い対応が可能になるという理屈だ。ただ、為政者が間違わないとは限らない

▼間違いをできるだけ少なくするために、多くの人が意思表示をする機会を保障するのが民主主義の基本的な考え方といえる。ひとたび道を誤っても、それを修正するしなやかさを備えているのも国民一人一人が主権者であればこそだろう

▼銃撃事件がこの国の民主主義に刻んだ傷をふさぎたい。目の前には有権者が政治参加する手段である選挙が控えている。きょう投開票の参院選は、この国がまっとうな民主主義を取り戻すための第一歩といえるのではないか

▼今回の選挙に、しっかりと取り組みたい。この国に民主主義が根付いていることを示したい。私たちにもできることがある。投票の権利を行使しよう。心の声に従って。

朗読日報抄とは?