本年度の県の当初予算は1兆3562億円である。単純計算で、その10年分に匹敵する13兆3210億円の支払いが命じられた。東京電力福島第1原発事故を巡り、東電の旧経営陣が津波対策を怠り会社に損害を与えたとして訴えられた裁判の東京地裁判決だ
▼被告となった5人のうち、当時の経営トップや原子力部門の責任者ら4人の賠償責任が認められた。原発の過酷事故の被害は筆舌に尽くしがたいが、それにしても庶民にとっては天文学的な賠償額である。国内の民事訴訟では過去最高の賠償額とみられる
▼米誌フォーブスが4月に発表した2022年版の世界長者番付トップは、米実業家イーロン・マスク氏。保有資産は当時のレートで約27兆円だった。こうしたごく一握りの富豪を除けば、今回の賠償金を払える人はめったに見当たらないはずだ
▼判決は「過酷事故が発生すると、わが国そのものの崩壊にもつながりかねない」と指摘した。原発を有する公益企業トップの責任はそれほどまでに重大で、安全に関わる判断は万全を期さねばならないということだろう
▼にもかかわらず、審理で明らかになったのは政府の地震調査研究推進本部(推本)の地震予測「長期評価」を軽視する姿勢だった。被告の1人は長期評価を「ご意見だ」と信頼性を否定し、裁判長が「それじゃあ推本がばかみたいじゃないですか」と発言する場面もあった
▼現経営陣は柏崎刈羽原発の再稼働を目指す。これほどの責任を負う覚悟はおありだろうか。