本紙窓欄の毎月最後の月曜は「きらきらキラリ特集」の日だ。月ごとにテーマを決め、子どもたちの投書を掲載する。同じテーマで投書される大人も大勢おられる。5月のテーマは「心に残る旅」だった

▼5月27日付で妙高市の早川葉子さん(75)は2001年春、悪性リンパ腫を患った夫、健爾さんと訪れた東北の思い出をつづった。秋田では満開の白い桜に迎えられて「生きていて良かった」と喜び合った。青森では津軽三味線の力強い響きを聞き「過酷な治療に耐え抜いた夫をたたえてくれている」と感じた

▼掲載日の未明、肺炎で上越市の病院に入院していた健爾さんが危篤に陥った。葉子さんは新聞を開かないまま、車で病院に急いだ。友人からのメールで投書が掲載されたと知り、病院で本紙を購入した。しかし、新型ウイルス感染防止のため面会することができなかった

▼葉子さんは一計を案じた。本紙を看護師に手渡し、健爾さんの耳元で投書を読んでくれるよう頼んだのだ。夫はもう意識がなかったが、妻の優しさが届いたのか意識を取り戻した

▼健爾さんは5月30日に眠るように旅立った。81歳だった。葉子さんは「夫の最期に21年前の思い出の旅を共有できた。本当にありがたかった」と振り返った

▼本紙には1942年11月1日付の創刊号から投書欄があった。当初は「発言」という名称で、「自由塔」を経て、49年9月から「窓」となった。名前も知らないけれど、投書欄を作った先輩記者はいい仕事をしたと思った。

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