今から十数年前、全国の民生委員たちがある活動に取り組んだ。常日頃から地震や風水害に備える重要性を呼びかけて、自らも実践する。「災害時一人も見逃さない運動」という
▼運動をきっかけに各地で要援護者台帳や福祉マップが作られ、その後の災害で大きな役割を果たした。2011年の東日本大震災の被災地でも住民に寄り添い、支援を続けたことは関係者の記憶に新しい
▼デジタル庁の資料に似通った文言を見つけた。誰一人取り残されない、人に優しいデジタル社会の実現をうたう。デジタル機器に不慣れな人に基本的な利用方法を教えるデジタル推進委員を募る内容だった
▼岸田文雄首相肝いりのデジタル田園都市国家構想に盛り込まれた。全国で2万人以上の確保を目指す。デジタル分野における民生委員のようなものだろうか。今後、国民運動として展開していくという
▼いちいち使い方を聞いて同僚の仕事の手を止める筆者のような「デジタル弱者」には心強い。ただ、手当はなくボランティアのような位置付けだ。研修を受けるなどの要件を満たす必要もある。いくつかのハードルがある中で、どれだけの人が手を挙げるのか
▼民生委員の特性と固有の役割が、これからの地域共生社会づくりに不可欠である。「民生委員制度百年通史」はこう記す。スマートフォンやパソコンの扱いに苦労する高齢者は多い。誰一人取り残されない共生社会の実現を願いながら、新たなセーフティーネットのこれからを見守るとする。