「戻る」という言葉はほんのりと明るさをまとっているように感じる。大切な人の無事の戻りはありがたい。サケが生まれた川に戻ってくれば、「がんばったな」と、ねぎらいたくなる

▼では、この言葉はどうだろう。ここのところの空模様を見ていると「戻り梅雨」とか「返り梅雨」と言いたくなる。早々の梅雨明け宣言で猛暑や水不足が心配されたことを思えば、慈雨の側面もある。とはいえ、雨続きの毎日は気分がふさぐ

▼何と言っても、突然襲ってくる豪雨には注意が必要だ。災害につながる恐れがある「線状降水帯」が各地で発生している。村上市では一昨日、3時間降水量が109・5ミリとなり、観測史上最大を記録した

▼〈七月の面(おもて)暗しや返り梅雨〉石塚友二。こうなると「まだ梅雨明けしてなかったんじゃないの」という声も聞こえてくる。過去には季節の変わり目がはっきりせず、梅雨明けが特定できなかった年もあった

▼もっとも今年の梅雨明け宣言のころは晴天続きで、その見立てに納得した記憶もある。一筋縄ではいかないのが気象とはいえ、気象庁の担当者には同情したくもなるような

▼一筋縄とは「普通の方法」や「尋常の手段」を指す。「一筋縄ではいかない」と言えば、1本の縄では縛ることができず複数必要になるような、簡単には済まない状況を意味する。科学や技術が発達しても想定外のことが起き、1本の縄では縛り切れないのが気象である。自然に対する謙虚さという2本目の縄が必要なのだろう。

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