古典落語「鰻(うなぎ)屋」は、夏バテが気になる土用のこの時季、生つばとともに腹から笑える。頼りない鰻屋の主人は、ウナギをおろすどころか、捕まえられない。客は一杯やりつつ、かば焼きを待つ

▼主人はどうしてもニュルニュルでつかめない。両手で交互に握っては一歩前へ。そんな格好で店から外に、町内を一回り。やっと戻ったと思ったらまた歩き出す。「どこ行くねん」と客。「前に回ってウナギに聞いてくれ」。定番のオチである

▼今夏は「土用の丑(うし)の日」が23日と8月4日の2回。ウナギ好きにはありがたい。「土用鰻」はこの国を象徴する食文化で夏の風物詩でもある。ウイルス禍の再拡大で巣ごもりするなら、せめてかば焼きでもと言いたくなる

▼消費の4割近くが土用の丑の日前後に集中しているという。今年は円安で輸入ものの価格もうなぎ上り。懐具合も心配だが、何よりニホンウナギは絶滅危惧種である。輸入や養殖、漁業による国内供給量は2000年の16万トンから3分の1に激減している

▼ウナギの稚魚「シラスウナギ」の密漁・密輸が増え、実態すら正確につかめない窮地にある。海に生まれ、数千キロも回遊し、川に戻る。謎が多く完全養殖も難しい。いずれウナギは食べられなくなるのか

▼保全生態学者の海部健三さんは、まず食べ過ぎないようにと説く。そして堰(せき)やダムなどの障害を改良し、当たり前の生態系を取り戻すことが必要だという。「ウナギに聞いてくれ」。そうとは言えない責任が私たちにある。

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